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改正商法もう一つの目玉「重要財産委員会」

「重要財産委員会」 人気薄、使い道手探り

平成15年4月に施行された改正商法の目玉である新しい統治形態「委員会等設置会社」が、ソニー、日立製作所などで活用されたのに対し、監査役を置く従来型企業に認められた「重要財産委員会」はほとんど活用されていない。
改正商法で規定された重要財産委員会は、資産取得・売却、賃貸借、担保設定、債権放棄、寄付などの「重要な財産の処分・譲受」と、資金の借入れ、コマーシャルペーパーの発行といった「多額の借財」の議案を決議できるが、どこからが委員会で決議する「重要」な財産であるかは、細かく規定されておらず、東京弁護士会などでは、土地や建物の取得費用の場合は「貸借対照表上の総資産額の100分の1に相当する程度」といった基準を示している。

(平成16年5月26日付日経産業新聞より)

1.商法改正による経営機構の改革

平成14年改正商法により、商法特例法上の「大会社」または「みなし大会社」は、「委員会等設置会社」若しくは「重要財産委員会」を置くことができるようになりました。このうち、「重要財産委員会」は、大規模会社において、取締役会決議事項のうち、緊急の決定を必要とすることが多い事項につき、少数の取締役のみによって迅速な決定ができるようにし、もって機動的な会社経営を可能とするとの趣旨から定められた制度です。

改正商法は、経営の効率性の確保及び監督機能の強化を目指す趣旨から、「委員会等設置会社」制度も導入しましたが、当初、この制度は、現在の我が国の大会社の機関の在り方とあまりに違いすぎるために、大部分の会社は採用しないことが予想されました。そこで、急激な変化に対応できない企業のために現行の監査制度の強化および業務執行の迅速化を図るためのシステムとして、「重要財産委員会」を作り、「委員会等設置会社」と二者択一の制度にして、大会社でも機動的な会社経営が可能となるようにしたのです。

しかし、蓋を開けてみれば、ソニー、日立製作所、東芝などで「委員会等設置会社」の導入が見られる一方(平成15年4−12月で約70社が委員会等設置会社に移行)、「重要財産委員会」を採用する企業はほとんど見受けられません。これまで「重要財産委員会」が設置された例は、少なくとも公表されたものはホンダ京王電鉄など極めてわずかです。

「重要財産員会」は、コーポレートガバナンス(企業統治)改革において、今後、どのように位置づけられていくのでしょうか。

2.重要財産委員会とは?

  • 通常の会社では、重要な財産の処分や譲受け、多額の借財等の重要事項は取締役会が決定しなければなりません(商法260条第2項)。しかし、大規模な会社においては、取締役の数が多すぎたり社外取締役の出席確保の問題等から、定例の取締役会だけでは迅速な意思決定ができず、実質的な意思決定は「常務会」や「経営委員会」と呼ばれる一部の取締役による非公式の会議でなされ、取締役会はこの決定を追認するに過ぎないなど、取締役会の機能の形骸化が指摘されてきました。

    そこで、平成14年の商法改正では、大規模な会社における従来の「常務会」や、「経営委員会」に法的な位置付けを与えるとともに、重要な財産の処分や譲受け、多額の借財といった重要事項につき決定権限を与え、それらについては取締役会の決議事項から外して機動的な意思決定を可能にすることを目的として「重要財産委員会」の設置を認めたのです。
  • 「重要財産委員会」は、商法特例法上の大会社又はみなし大会社、委員会等設置会社に移行しない従来型の会社(監査役会設置会社)が設置できる会議体です。取締役の数が10人以上で、かつそのうちの1人が社外取締役(商法188条2項7号の2)である場合に、取締役会の決議により設置することができます(商法特例法1条の3第1項)。

    「重要財産委員会」の組織・メンバーの条件は、取締役3人以上で組織することであり(商法特例法1条の3第3項)、かつそれで足ります。「重要財産委員会」のメンバー(重要財産委員)は、取締役会の決議により定めるこことされています(商法特例法1条の3第4項)。

    このように、「重要財産委員会」設置の要件として、取締役のうち1人以上が社外取締役であることが要求されていますが(商法特例法1条の3第1項2号)、委員会等設置会社とは異なり、「重要財産委員会」のメンバーに社外取締役がいることまでは要求されていません。

    その理由は次のとおりです。
    • 社外取締役が会社に常勤することは実際上困難であろうこと、従って社外取締役が「重要財産委員会」のメンバーたることまで要求すると「重要財産委員会」の機動的な開催が困難となるおそれがある。
    • 他方、社外取締役も取締役会のメンバーとして適正な業務執行を十分監督できると考えられる。
  • 「重要財産委員会」は、重要な財産の処分や譲受け、多額の借財(商法260条第2項第1号、2号)などの重要事項で取締役会の決議により委任を受けた事項につき決定を行う権限を有します(商法特例法1条の3第2号、第5号)。

    しかし、支配人等の選任や解任、支店の設置等(商法260条第2項3号、4号)については、さほど緊急性があるとは考えられないとして除外されているほか、いわゆる重要な業務執行(商法260条第2項柱書)についても権限の委任が認められていません。

    このように、「重要財産委員会」制度においては、取締役会の形骸化を防ぐ趣旨から、決定権限の委任事項を、従来の取締役会専決事項(商法260条2項)のうち「重要な財産の処分および譲受」と「多額の借財」に限定されています。

    また、「重要な財産の処分」の重要性の基準については、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱いなどの事情を総合的に勘案して判断すべきとされています(最判平成6年1月20日)。
  • 重要財産委員会に委任することのメリット・デメリット

    1.経営判断の迅速性
    委任されることで、会社の保有する不動産を売却したり、あるいは新規事業用地を取得したりする場合の経営判断が速くなるという利点があります。

    また、多額の事業費を伴うプロジェクトの推進にあたり必要となる事業資金の捻出について、経営判断が速くなるという利点があります。

    2.問題点
    新株や社債の発行、その他の重要な業務執行については、取締役会は重要財産委員会に権限を委任することができません。つまり、グループ経営の中での組織再編成や、他の企業との提携といった事項については取締役会の決議が従来同様必要となります。

    ここで問題となるのは、子会社の株式を売却し、当該子会社をグループから離脱させるような場合です。子会社株式の処分自体は、「財産の処分」として、重要財産委員会の権限の範囲に該当するようにみえますが、グループの再編成につながることから、同時に、取締役会の決議事項である「重要な業務執行」にも該当する可能性があります。

    このような場合に、重要財産委員会が子会社株式の処分を行うことができるのどうか、仮に重要財産委員会の権限を越えるとすれば、行われた処分の効力はどうなるのかが問題となります。

【京王電鉄のケース】

京王電鉄株式会社は、平成16年4月1日、迅速な意思決定による機動的な業務執行を行うため、重要財産委員会を設置。同社の「重要財産委員会」の導入は、私鉄業界初となる。これにより、新規事業の土地・建物の購入等につき迅速な意思決定を行うことが可能となるという。

重要財産委員会の構成メンバーは、会長、社長を含む8人の本社常務取締役。初めて開催された重要財産委員会では、東京・茅場町で計画している宿泊特化型ビジネスホテル建設に関する議案を決議し、委員会の指名を受けた担当役員が4月下旬の取締役会で報告した。

同社には、重要財産委員会と同じ8人のメンバーで構成する常務会がある。だが、ホテルの計画は常務会では議論していない。二つの会議体は議事録も別々に作成する。「屋上屋を重ねる会議体になっては制度の趣旨に合わない」ためである。

重要財産委員会は、資産取得・売却、賃貸借、担保設定、債権放棄、寄付などの「重要な財産の処分・譲受」と、資金の借入れ、コマーシャルペーパーの発行といった「多額の借財」の議案を決議できる。ただ、どこからが重要財産委員会で決する「重要」な財産であるかは、細かく規定されていない。このため、京王電鉄は重要財産委員会に向けて、東京弁護士会などの示している基準を参考にした。

それによると、土地や建物の取得費用の場合は「貸借対照表上の総資産額の百分の1に相当する額程度」とされる。同社の資産総額は約5千億円で、1%は50億円。寄付の場合は1万分の1相当で5千万円となるなど、金額は議案の内容によって異なる。実際はこの基準をやや下回るレベルで線引きした。

同社の過去の事例を検証すると、委員会で決議する案件は年間に4−6件に上った。

2人の社外取締役を含む18人の取締役で構成する取締役会の開催は月に1回。それに対し、重要財産委員会は必要に応じて開催できる。同社の取締役は「競合が激しい土地の取得や、金利上昇面での資金調達など迅速な意思決定が可能となる」と重要財産委員会の利点を説明する。

(前出;平成16年5月26日付日経産業新聞より)

3.企業統治の改革に向けて

「重要財産委員会」は、設置当時は、「重要財産委員会」で一度で決議し経営のスピードアップを目指すか、従来通り経営会議や常務会で議論したうえで取締役会で決議するか、企業の現状に合わせて選択肢を増やすことに主眼がありました。

しかし、最近の企業統治見直しの論点は、取締役会の役割を会社としてどう位置づけるかという根本部分にまで及んでいます。取締役会の権限縮小、執行役員への権限委譲による経営の監督と業務執行の分離、社外取締役の増員や、取締役会の戦略立案機能強化など、様々な改革の動きが見受けられます。その中で「重要財産委員会」をどう位置づければよいかが定まらないところに採用が進まない理由があるようです。

実際、ホンダでは平成15年4月の設置から1年間で、「重要財産委員会」にかかるほどの議案はなかったといいます。

その一方で、京王電鉄の場合は、平成15年5月に2005年度を最終年度とする3年間の連結中期経営計画を策定、そのなかで企業統治改革を大きな柱に据えています。まず、平成15年8月にグループ強化に向け「グループ経営協議会」を発足。今年度は「重要財産委員会」を設置するとともに、実質的な議論の場である常務会にも取締役会への報告を義務付けました。常務会と重要財産委員会の決議の報告に対しては社外取締役などから活発な意見が出るようになってきたといいます。ただ、改革はこれで完了ではなく、「監査役制度を維持しながら、段階的に企業統治の強化策を検討する」とのこと。

改正商法が一つの契機となって、監査役会設置会社においても、任意の指名・報酬委員会や、外部の有識者による経営諮問委員会を設置するなど、統治改革が相次いでいます。

経営者の視点で企業統治の在り方を探る日本取締役協会は、今年度のプロジェクトとして委員会等設置会社の1年の成果をまとめるとともに、監査役制度の会社を対象とした企業統治コード(規範)を策定、取締役会の監督機能や外部に対する透明性といった課題について問題提起する見通しです。

4.商法改正(会社法の現代化)

このように、「重要財産委員会」の利用が非常に少ないため、「重要財産委員会」制度を弾力化することにより経営の機動性を確保したいとして、同制度を活性化するための改正が求められています。

「重要財産委員会」の利用が進まない原因の一つに、監査役の重要財産委員会への出席義務の問題がありました。

監査役には、重要財産委員会に出席し意見を述べる義務があります(監査特例法1条の4第3項により商法260条ノ3第1項を準用)。重要財産委員会は、取締役会決議事項の一部を取締役会に代わって決定する機関であり、その活動に対する監査の実効性を確保する必要があるためです。

しかし、重要財産委員会は、緊急な決定が必要となる事項についての機動的な決定を可能にするために設けられるものであって、取締役会と比べ頻繁な、緊急の開催が予定されていることから、他の職務(社外監査役についての他社等における職務を含む)等の日程が既に入っている監査役は、重要財産委員会に出席しなくても、義務違反にはならないと解されています(始関「平成14年改正商法の解説」〔\〕商事1646号4頁)。

しかし、このように監査役、ことに社外監査役の出席義務について緩やかに解する考え方に対しては、重要財産委員会の決定が持つ危険性を考えた場合、監査役の出席義務を弱める解釈には賛成できないとして、やむを得ない理由による欠席以外は任務懈怠となると解すべきとの考え方もありました。

かかる状況のもとでは、監査役全員が重要財産委員会に出席しなくても重要財産委員会の開催は適法であり、出席しない場合に監査役の任務懈怠責任が問われる可能性も現実には低いと考えられるにしろ、監査役が同委員会に出席しない場合に生じる疑義を回避するため、実務では重要財産委員会の設置に消極的であったようです。

仮に監査役全員に出席義務があるとすれば、少数の重要財産委員を多数の監査役が取り囲んで会議を開催することも有り得ますし(例えば、取締役3名、監査役7名で重要財産委員会を行うというように)、また監査役には社外の者が多いため、「重要財産委員会」を頻繁に開催することも容易でなくなります。

そこで、要綱案では、通常の監査業務と同様、出席者を分担するべきとの考え方が示され、「複数の監査役が設置された株式会社における重要財産委員会については、監査役会の決議又は監査役の互選により重要財産委員会に出席すべき監査役を定めたときは、その定められた監査役以外の監査役は出席義務を負わないものとする。」とする案が出されており、現在審議会で検討がなされています。


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